詰らん意地は蛇の足。

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--another side-- 尊が呼び出される数時間前。 八城宮克は目の前の光景を疑った。 自分が数日まで追い掛け回してた笹原嵐の隣に憮然とした表情で立ち並ぶ男。 その男は紛れもなく、かつて一匹狼として名の知れていた新嶋旭だ。 接触したことは無いが、高確率で馬が合わないだろうと八城宮は一方的に思う。 どういうことだ…? 怪訝に思いながらその光景を無意識に睨み付けるように眺めた。 まさか、あの新嶋旭までもが嵐に言い寄っているというのか。 旭にとっては迷惑でしかない疑惑が浮上するが、すぐにありえないと思い直す。 ――新嶋旭はあの平凡の連れだったと。 思い出した瞬間、何故か猛烈に感じた苛立ちを今は抑えた。 傍から見ると嵐が一方的に話し掛け、旭がそれに適当な相槌を打っているように見える。 見れば見る程妙な組み合わせに思えてきて、八城宮は目の前の光景が幻想なのではないかと己の目を擦ってみたが、それは周囲が黄色い声を上げるだけに終わった。 八城宮は考えることをやめ、乱暴な足取りで近付いて行った。 「おい」 「おっ!克じゃねーか!すっげぇ久し振りだなっ!一週間ぶりぐらいじゃねえ!?今まで何やってたんだよー!」 嵐がぱっと表情を明るくさせて早速八城宮へと絡み始める。 肩を無遠慮に叩かれながら八城宮は複雑な心境だった。 こんなさり気ない触れ合いにもかつては胸が熱くなっていたはずなのに、今ではどうだ。 前々から思ってたけど、コイツ馬鹿力すぎねぇか?ぐらいにしか思わない。 相変わらずの声のボリュームに眉根を寄せその原因を片手で制してから、ここぞとばかりに息抜きをしている旭に声を掛ける。 「おい」 「……」 「テメェだ、聞こえてねぇのか!この不良野郎!」 「…ンだよ、職務怠慢野郎」 束の間の休息を邪魔され心底煩わしそうに八城宮を見遣った旭。 短気な八城宮が舌を打つ。 正に一触即発。二人の間に火花が散る。 その場に居合わせていた生徒は不穏な空気を感じ取り、ヤバいんじゃないのコレと冷や汗をかきながら近くの生徒と顔を見合わせている。 そんな中、危険を顧みず空気を打ち破った者がいた。 「そういや今週ミスド全品半額だよな!」 言わずもがな、超絶KY野郎笹原嵐である。
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