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「ん、皿」
「あいよ」
食器棚から深い皿を二枚取り出し、史に手渡す。
あの後、俺の腹の虫が盛大な鳴き声を上げたので夕食をとることにした。
料理は滅法駄目な俺に代わり、なんと史が自ら調理を名乗り出た。
じっくりコトコト煮込んだシチューはいい匂いを大量放出しており、先程から俺の食欲を刺激する。綺麗に流し込まれたそれをテーブルの上に乗せると、俺達は向かい合って腰を下ろした。
いただきますの合図で火傷をしないように少しずつ口に含む。……文句なしに美味しい。
「お前、料理出来たんだ。なんか意外」
「家庭科の教師、まりなちゃんをモノにする為には何のこれしき」
「……」
「彼女、家庭的な男性がタイプらしいからさあ?努力は惜しまん男なのだよ、俺は」
中々難易度高くて苦労したよ、なんて軽やかに笑う男に驚きで言葉も出ない。
ついさっき華麗な包丁さばきを目にしただけにゲームへの強い執念を感じる…。
美形で秀才で努力家…それなのにゲーマー……なるほど、これも一種の残念なイケメンってやつなのか?教えてくれ小豆達よ。
「……と、いうわけでごめんな」
「ん?なにが?」
「ええええ聞いてなかった!!?」
どうやら俺がイケメンの定義を見失っている間にも、何か話していたらしい。
やけに潮らしい表情で謝罪したかと思えば、俺の顔を見るなり一気に脱力してテーブルに項垂れる史。…ごめんて。
軽く謝りながらもう一度話すよう促せばのっそりと起き上った奴は、今度は俺がきちんと聞いているか確認してから再び話し始めた。
「だーかーらあ、お前が屋上出てった直ぐ後に俺も自室戻ろうとしたんだよ。そんで廊下通ったら、例の真っ赤な髪を見つけて…でもその隣にいたのが何とあの忌まわしきモジャ野郎だったわけ!俺の大切な時間を奪う奴が!!」
「ああ、知ってる」
「っくぅぅう~!アイツまじふざけんな!こちとら時間足りなくて積みゲー増えてってんだよ!じっくり時間掛けて余すところなくプレイするのが俺のスタイルなのに!ああイライラするっ!最近はパーティにも貢献できてないし仕事終えた頃にはインする気力も無くなってるわ!だぁほ!!」
……こいつ、愚痴言いに来たのか?
それから史の口は五分間ノンストップで言葉を発し続けていた。
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