254人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
「この金はね、誰にもやらないんだ。千佳のためにずっとコツコツ貯めてきたんだ。
あの子に教えてやってくれないか。
世の中人を信じちゃいけない。
信じていいのは、金だけなんだって。
私が死んだら、そう伝えてやって欲しいんだよ。」
江美子はどれほどの人達に、裏切られてきたのだろうか。
「千佳はあなたが癌だって事を知っているんでしょうか?」
義人の質問に、江美子は悲しそうに笑い出した。
「あの子には、私が死のうが生きようが、関係ないのさ。
だからね、私はさっきも言っただろう。
愛なんて信じちゃいけない。
男も、女も、親だって、信じちゃいけない。
千佳には、そんなものを背負わせたくないんだ。
それにあの子は私を憎んでる。」
そう言うと江美子は話を続けた。
「お酒のせいで話をしすぎたようだよ。
私が言いたいのは、私が死んだら、あんたからこの通帳を千佳に渡しておくれ。
私からだと、絶対に受け取らないから。
頼んだよ。
くすねたりしたら、呪ってやるからね!」
そう言い終ると、通帳と印鑑を義人の手に握らせた。
「僕には無理です・・・」
江美子に伝えたが、江美子は何も言わずに去っていった。
最初のコメントを投稿しよう!