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母がどんな決心をして、私を殴ったのか、私は何も知らず、母を憎んできた。
そして、男に捨てられるという同じ遺伝子を持っていると、勝手に思い込んでいた。
母が男を刺したあと、血だらけになった両手で、私をぎゅっと抱きしめてくれた事を思い出した。
母が刑務所に入った後、父が夜逃げするように私を引き取りに来た事を思い出した。
「なんで今なの・・・今になって、真実を知るの・・・知らないままのほうがよかったのに・・・」
千佳は嗚咽した。
「父さんを、殺してくれ・・・江美子を不幸にして、お前まで不幸にしてしまった・・・父さんを殺してくれ・・・」
千佳は父を恨む気持ちなどなかった。
自分も母を苦しめたのだ。
義人に捨てられた自分を見せてやる事で、自分と同じ道しか歩めない娘を見せつけてやるつもりだった。
父も、私も二人で母を苦しめてきたのだ、それでも母の死に顔はなんて幸せそうなんだろう・・・
最後に私に会えただけで、本当にそんなに幸せだったのだろうか・・・
千佳は江美子のそばから離れられず、ずっと泣き続けた。
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