トラウマ

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「この金はね、誰にもやらないんだ。千佳のためにずっとコツコツ貯めてきたんだ。 あの子に教えてやってくれないか。 世の中人を信じちゃいけない。 信じていいのは、金だけなんだって。 私が死んだら、そう伝えてやって欲しいんだよ。」 江美子はどれほどの人達に、裏切られてきたのだろうか。 「千佳はあなたが癌だって事を知っているんでしょうか?」 義人の質問に、江美子は悲しそうに笑い出した。 「あの子には、私が死のうが生きようが、関係ないのさ。 だからね、私はさっきも言っただろう。 愛なんて信じちゃいけない。 男も、女も、親だって、信じちゃいけない。 千佳には、そんなものを背負わせたくないんだ。 それにあの子は私を憎んでる。」 そう言うと江美子は話を続けた。 「お酒のせいで話をしすぎたようだよ。 私が言いたいのは、私が死んだら、あんたからこの通帳を千佳に渡しておくれ。 私からだと、絶対に受け取らないから。 頼んだよ。 くすねたりしたら、呪ってやるからね!」 そう言い終ると、通帳と印鑑を義人の手に握らせた。 「僕には無理です・・・」 江美子に伝えたが、江美子は何も言わずに去っていった。
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