母の遺言

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父が女と家を出たと、母から聞かされた時、母は言った。 「千佳、この世で信じていいものは、お金だよ。」 それは、お金によって父を失い、お金によって体を奪われた母が、私に同じ道を歩んで欲しくないと願う、優しさだった。 人を信じ、裏切られ、傷つく娘を見たくないと願う、母の優しさだった。 私に憎まれて、それでも何も望まず、ひたすら娘を愛し続けていたのだ。 母によって生まれたトラウマが、母によって癒されて行く。 「千佳、お前は母さんのようになってはいけない。」 中学の頃、よくそう聞かされていた。 そんなに醜い自分がわかっているのなら、男を連れ込むのなんてやめればいいのにと、冷ややかな目で見ていた。 自分を男達から守るために、「私は強姦されたんじゃない、 男が好きなんだ、 本当は心も体もボロボロなのに、男に捨てられたからボロボロになったのだ」と、 そう見せる事で、私を守っていたのだ。 この女は男なしでは生きていけないと思っていた、幼く浅はかな私をどうか、母さん許して・・・ 私は、あなたの遺言を聞けそうにありません。 私はあなたのように、強く、一途に人を愛し、騙されても、捨てられても、ひたすら愛を信じ生きて行こうと思います。 あなたが、愛の見返りを期待しなくても、私を愛してくれたように、私も誰かを愛して行きたい・・・
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