母の遺言

3/5
前へ
/53ページ
次へ
「千佳。」 義人の優しい声が聞こえた。 「千佳、ごめん。何の力にもなれなくて・・・」 「義人がどうして謝るの?」 「俺が、千佳を捨てて、千佳を傷つけたから・・・」 千佳は義人に微笑んだ。 「義人と別れなかったら、私はお母さんに会いに行く事はなかったと思う。」 千佳は力強く言った。 「私は、自分の哀れな姿を、お母さんに見て欲しかったって思ってたけど、 本当はそうじゃなかったような気がするの。 私は、義人の愛を失ったとき、お母さんに会いたくなった・・・ 何かにかこつけて、結局は本当はわかってたの。 この人は私を愛してるから、絶対に私の言うとおりに、そばにいてくれるはずだって・・・ 私、本当は怖かった・・・ 一人になるのが、怖かった・・・ 義人が家を出て行く時、無様な姿を見せるのが恥ずかしくて、 止めることもできなくて、 きれいな別れ方しなきゃいけないような気がして、 私は本当は別れたくなんてなかったの・・・ すがりついてでも、本当は一緒にいたかった・・・ それが素直に言えなかった。」 千佳につられるように、義人も涙を流していた。 「千佳、ごめん。俺は、本当に自分勝手だ。 千佳と別れてから、千佳の事ばかり気になって・・・ 千佳を心配するふりしながら、結局自分が千佳に会いたく、 都合のいいように、千佳を心配するふりをしてただけ・・・」
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

261人が本棚に入れています
本棚に追加