歩く死体症候群

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歩く死体症候群

    コタール症候群。 別名「歩く死体症候群」。 最近報告件数が多くなってきたが、いまだに珍しい病であり、真性と呼んで良いものは極めて少ない。 不思議の国のアリス症候群も珍しいが、この症候群の奇抜さは他を圧倒する。 何故ならば、「臓器が無い」、「臓器が腐っていて機能していない」、「自分は既に死んでいるが肉体は生きている為死ぬ事は無い」、「自分には血が通っていない為、血が流れる事は無い」、「自分は死ねない体だ」など… タナトフォビア、ネクロフォビアとはまた一線をかいした「死」に取り憑かれた症状が現れるからだ。 2010年においても「うつ病」とするか「精神分裂症」とするか研究中であり、医師は治療方針と処方薬に悩む。下手をすればコタール症候群を知らない医師すら居るであろう。 今、私の診察を受けている患者も話を聴く限りはコタール症候群だと思う。 「ですから、宇宙人に襲われてから体調がおかしいんです。きっと、宇宙人が私の内臓を持っていったからだと思うんですよ。血だって流れていない。私は宇宙人に改造されたんだ!」 コタール症候群には先ず訴えている症状に合わせた検査をしてもらう。 世の中にはカウンセリングと処方薬だけで終わらす医師も居るが、検査の結果が判るだけで症状が無くなる場合も有るので私は処方薬を出すより、とにかく検査をしてもらう。 「小間さん、とりあえず検査をしましょう。先ずは血液検査を…」 「……はぁ…。」 私は患者に病院の地図を渡した。 と、言っても採血室はすぐ近くにあるのだが… 患者さんを見送ってから2分後、採血室から悲鳴がした。 私は今診察している患者には此処に居るように言ってから採血室に向かう。 人だかりに無理矢理体をねじ込ませて採血室に入ると… 小間さんはニコニコ笑いながらこちらを見ていた。 「先生、血がありました。私、血がありましたよ。緑色の血が…。」 コタール症候群を疑い、検査をすると本当に臓器が無い人などが極まれに居る。    
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