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拝啓 お母様、お元気ですか?
僕は元気にやっています。
色々と一段落ついたので、手紙を出そうと思いました。
親に手紙を出すのはなかなか気恥ずかしいものですね。
そうそう。この間、旧友に偶然逢い、思い出話なんかをしました。
思えば、僕は幼き頃から周囲に不思議と期待される子でしたね。
僕はその期待にそえる様に頑張ったつもりです。
それこそ人格、勉學、運動………あげたら限りが無い程です。
でも、僕は幼き頃から変な癖がございましたね。
母様、貴女は気が付いていたでしょうか?
僕は、どうしてもやらずにはいられない事があったのです。
それを見る度、僕の心は高鳴り、そして良心や常識では抑えられない程、魅惑的に疼くのです。
その疼きに耐え切れず、その悪い癖を本能のままにやると、僕は日常生活では得られぬ程の幸福に包まれました。
母親や教師に怒られる。
子供にとっては、堪え難い恐怖でしょう。
でも、その恐怖にすら打ち勝ち、罪悪感すら甘美なものにする僕の悪い癖…
周囲の期待にこたえる良い子でいた僕がひた隠してきた悪い癖…
これはなんて説明すれば良いのでしょう。
例えるなら、ペンキ塗りたてと書かれたベンチが有るとします。
僕はそれを見ると触りたくなってしまうのです。
あるいは、まだ固まっていないコンクリートに業と足跡をつけたり、學校にある消防車を呼ぶ緊急ボタンを押してしまったり…。
簡単に説明すれば、子供が悪戯としてやる様な事などですが…
僕は先程書いた通り、表面上では周囲の期待にこたえる優等生でしたから、一度も怪しまれずに済んでいました。
誤解されない様に書いておきますが、不思議と悪戯では済まされない様な事には興味が無いのが唯一の救いです。
嗚呼。今、そんな事かと思いましたでしょう?
貴女はまだ気が付いていないだけです。
歳が違うので、貴女には理解出来ない事でしょう。
子供向け番組で、悪の組織が、ロケット発射ボタンを押すシーンがよく有るのです。
子供はそのロケット発射ボタンに憧れを抱くものです。
………悪戯心と一緒に。
悪戯では済まされないのは重々承知です。
でも、でも、何故かこれだけは我慢が出来ないのです。
お母様、僕は周囲の期待にこたえる子でした。
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