実話≠人形

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  その友人から「ノロウイルスにかかった。一人暮らしで食事もまともに出来ない。助けて。」なる趣旨のメールが送られてきた。 料理は残念ながら上手くないので流動食的なものと某医薬品会社が発売したスポーツドリンクより更にリンゲル液に近いものを買い、ややあって家に大量にあるエタノールを片手に友人宅に行った。 鍵は既に開いているとメールで知らされていたのでマスクをつけてから扉を開ける。 初っ端から下駄箱の上に飾ってある人形と目が合うが気にしない。今は脱水症状が起きているかもしれない友人を助けるのが先である。 が、人形は苦手なので靴を脱ぎ散らかす様にして急いで家の中に入る。 至る所に人形が置かれているが出来る限り見ない様にしておそらく寝室が有るであろう方へ足を進めていく。 「来たよー。入るよー。何か食べられるー?とりあえず、水分補給しないー?」 と、言いながら扉をノックしてから部屋に入る。 病人が居る独特の部屋の暖かさと雰囲気を感じながら私は部屋の中央迄行きベッドで寝ている友人を覗き込む。 薄暗い部屋の所為も有り、友人は少し虚ろな目で私を見ていた事に覗き込んでから気付いた。 こりゃ救急車を呼ぶべきかなぁ…。と考えながら、とりあえず補給液を飲ませ、下瞼をめくって貧血でないか調べたり、リンパ節などを触たり、脈や体温を計ったり、所謂医者の真似事をしてみる。 ゼリーを食べさせてみると眼の虚ろさはほぼ無くなり一安心するが、念の為にと泊まり込んで看病する事にした。 症状が安定している内に近くのコンビニで自分の食べる分を買ってこようと玄関に向かう。 また下駄箱の上に飾られている人形と目が合った。 つくづく私は人形が苦手だなと思いながら急いで靴を履き、人形の視線から逃れる様にコンビニ迄走っていった。    
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