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「つ、着いたよ……雄太」
「あぁ……」
ゆっくりと俺の手を離していく静。離された手に外気が触れるが、俺の手もかなり熱くなっているのか、冷たい空気が気持ちいい。
静の身体はもっと熱いはずだ。
「静……俺は大丈夫だから。もう帰っていいぞ」
「もう少し……もう、すこ――」
そう言って静の声が消えた。次に俺の耳に、ドサッという何かが落ちる音が届いてくる。
まさか、そんな……。
「静……」
声は聞こえない。
代わりに、俺の足元――下の方から荒い息遣いが聞こえる。嘘だろ? 静、返事をしてくれ。
「静!」
俺はしゃがみ込み、手探りで静を探す。手は無機質な玄関のタイルを触る。
冷たい感触が指を伝わってくるが、かまわず手を動かす。這わすように床を探ると、不意に触れる感触があった。
これは静の身体――これは手、これは……これは――。
肩から首、顎、頬、額。触れたそこは、異様なほどの熱を帯びていた。
「静! しっかりしろ!」
見えない……静の顔が見えない。
こんな時、見えないのは辛い。どうすればいい? 今はこの家には俺一人。静の看病なんて、俺一人では出来ない。
「そうだ――電話!」
救急車を呼べばいいんだ。
ここで時間を取っている訳にはいかない。苦しんでいる静を一刻でも早く、楽にしてあげたい。
「静、待ってろ。すぐ来るからっ」
「ゆう、た……」
「待ってろ、静」
俺は静をひとまず玄関に寝かせた。怪我をさせる恐れがあるから、俺には抱え上げる事は出来ない。
冷たいだろうけど、少しだけ我慢してくれ。
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