31人が本棚に入れています
本棚に追加
見えるもの全てが世界だと思っていた頃。俺は世界を全て見ていると思っていた。
でも、それは違った。
俺はまだ見ていない世界があった。
「雄太、起きてる?」
「ああ……静か。起きてるぞ」
声が聞こえる。この声は静だな。
「雄太……髪ボサボサだよ」
「マジで? あちゃー」
静の声が聞こえる。笑い声が上から聞こえてくる。
頭に何かが触れた。優しく撫でるように俺の頭を触るこの感触は、静の手だろう。だが、俺にはそれが見えない。
声の主が誰で、どんな顔かは知っている。
俺の幼なじみで静。それでも俺には顔は見えない。
――今の俺は視力を失っている。
「雄太……はい着替えだよ」
「……ありがとう」
俺の手に触れるこの感触は、いつも着ている制服だ。いつも、俺の着替えを用意して手に載せてくれる静。
最初は服を着るのに苦労したが、今はやっと慣れきた。見えなくても出来る事は自分でしたい。
それが俺の考えだ。
どうしても出来ない事は最初は手伝ってもらう。そして、覚えてからは自分の力でやってみる。
静には随分と世話になっている。俺が一年前、事故で視力を失ってから、ずっと俺の目の代わりをしてくれている。
最初のコメントを投稿しよう!