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本当は、今通っている高校も辞めるつもりだった。
それを静が止めて――
「私が、雄太の目になる! ずっと……これからずっと……」
そして俺と家族にこう言った。
俺には静の顔が見えない。でも声で分かった――泣いている静の顔が脳裏に浮かんだ。
静は俺の手を取り、優しく握ってくれた。それだけなのに……たったそれだけなのに、俺は泣いていた。静の気持ちが、優しさが、俺の中で広がり、波を打つように響いていった。
それから静はずっと俺のそばにいてくれるようになった。
「雄太、ご飯食べる?」
「ああ……食べるよ」
俺には両親がいる。でも共働きで朝からバタバタして、もう出勤している。 ご飯は用意してくれているので問題はないんだけど……。
「今日のは……多分まともだと思う」
「今えらく、間があったな」
静から返答がない。多分、苦笑してるのだろう。
あの親共は俺の目が見えない事をいい事に、無茶苦茶な料理を用意して行く癖がある。見た目が普通だから、静でも見分けられない代物で、以前食べたときに悶絶していたのを覚えている。
見えなくても、声がそれを物語っていた。しかし……普通なら息子の心配をするだろうが、俺の両親はまったく昔と変わらず接してくる。それが俺には嬉しかった。特別扱いしない両親に、俺は感謝している。
「それじゃ、食べるか」
「そうね」
俺達は朝ご飯を食べ始めた。今日は取り合えず問題ないみたいだ。しかし、食べるのは大変だ。
静に食べさてももらうのは恥ずかしいが、自分でも箸が使えないので仕方ないのだ。
箸は持てても、ご飯やおかずの場所が分からない。これでは、食べようがないってものだ。
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