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静と一緒に学校までやってきた。
学校は前と変わらないのだろう。見えない目の奥に昔見ていた学校の光景を思い出す。
見えていたものが見えないと、こんなに苦労するものだとは思わなかった。だが、見えなくなったものは仕方ない。後ろ向きでは前には進めない。精進あるのみだ。
「おはよう! 雄太」
「あはよう。雄太君」
俺に気づいた友達が挨拶をしてくるので、俺も挨拶を返す。それは今までと変わらない朝の挨拶。
こんな俺を、いや、こんな俺だから特別扱いする奴もいる。
最初は特別扱いされるのが嫌で堪らなかった。誰も俺の気持ちなんか分かってくれる奴なんていないと思っていた。
でも俺は考えた――それは仕方のない事。俺がもし立場が逆なら、そいつ等と同じ事をしているかも知れない。もしかしたら避けるかも知れない。そう考えると、これは受け入れるしかない現実だと思うようになっていた。
下駄箱で穿き替えて教室を目指す。しかし、教室までの道程は普通の人間なら問題ないだろうが、俺にとっては大変難関だ。
まず、階段を上がって行くだけでも結構苦労する。段差の間隔が掴めないと踏み外すので、最初は何度も躓(つまず)いては転んだものだよ。静も一緒にいるが、俺が出来るだけ手助けはしないでくれ、とお願いしてるので隣で見ているだけ。
隣から聞こえる静の息遣いは、それはもう心配そうだからな。
一度だけ俺を助けようとして、一緒に階段から落ちた事もあるが、あの時は俺の方が驚いてしまった。やけに柔かい床だと思っていたら、静が俺の下にいたからだ。
――俺を守る為なら、静は自分を平気で犠牲にしようとする。
そのときは、かなり怒鳴りつけたが静の「雄太が無事なら」と言う一言で、怒気が失われてしまった。
俺は静に傷ついて欲しくない。これ以上、傷ついて欲しくないのに……。
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