5人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
私たちは伊織の家に向かっている途中で、他愛のない話で盛り上がっていた。
「伊織…?」
後ろから伊織の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと1人の女性がいた。
「紅(コウ)…」
「伊織…伊織なのね!?」
女性は目に涙を溜めながらこっちに向かって歩いてきた。
当の本人、伊織はどこか一点だけを見つめている。
『伊織、しっかりしてよ!!』
その瞬間、紅と呼ばれる女性が伊織に抱きついた。
伊織は紅さんを抱きしめようともせず、紅さんから離れようともせずに、ただただ一点を見つめているだけだった。
『伊織…?』
私は何故かその場から逃げ去ってしまった。
しばらく経って、後ろから伊織が私の名前を呼ぶ声が聞こえても、立ち止まることなく走り続けた。
伊織はあの時、嬉しかった?
嬉しかったなら良かったね――
最初のコメントを投稿しよう!