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駅を降りると北口を出てタクシーに乗ることにしている。 そのタクシー乗り場の手前にコインパーキングがあるので、そこは嫌でも目に入るのだが、そこに止まっている一台の車に気付いたとき、聡一郎は「おや」と思った。 赤のプジョー205GT、聡一郎が母親と共有して乗っている車である。 近くに寄ってナンバープレートを確認するまでもない。運転席の脇にぶら下がっているお守りが「うちのプジョー」の目印だ。 格好悪いからやめてくれと、聡一郎はやめさせようとしたのだが、彼の母親は「交通安全のお守りだから」と譲る姿勢を見せなかったので、聡一郎は渋々承諾した。 運転席に交通安全のお守りをぶら下げた赤のフランス車など、めったに見られるものではない。 今視界に入っているその車は間違いなくうちのものだろう。 近づくにつれてその確信は深まり、ナンバーを見てやっぱりと思う。 聡一郎はしかし、目の前に自分の家の車があることが不思議だった。 この車を運転する人間は、自分以外では母親しかいない。 今朝、聡一郎は母親に駅まで送ってもらったのだから、ここに車があるということは、それは母親の運転によるものでなければならない。 しかし、聡一郎の母親は、よほどのことがなければ、こんな時間に出かけたりはしない。 時計は9時をまわっている。酒好きな母親だから、この時間は必ず酒を飲んでいる。 夕食と一緒に嗜む酒を我慢してまで、車を運転して駅にくるならば、それ相応の理由があるはずだ。 とにかく、それもこれも、本人に直接聞けばわかることだ。 聡一郎はバッグの中からキーを取り出し、車に乗り込み、母親の携帯に電話をする。 母親はすぐに出た。
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