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この世に固有な存在であるはずのものが、二つあるとしたら、そのうちどちらかが本物で、どちらかが偽者なのだろうか。
量子力学に、対生成とか対消滅という言葉があったような気がする。
その対消滅のように、今自分が乗っている車と、家にあるもう一方の車が同じ空間を共有したら、両方とも消えてしまうようなことにならないだろうか。
やがて受話器から母親の声がする。
「やっぱりちゃんとあるわよ」
「そっか……」
聡一郎は、何か絶望に包まれたような心地で、母親の声を聞いた。
家にあるはずの車に、今自分が乗っている。
「なんでもいいから早く帰ってきなさい!」
ほとんど叱責に近い母親の声を、意識の遠くで聞きながら
「わかった……」
と小さく言って、聡一郎は携帯を閉じた。
「滝宮天満宮」と書かれた運転席脇のお守りを見る。
やはり、間違いなくうちのプジョーだ。
それ以前に、おれは、自分のキーを使ってドアを開け、この運転席に座っているではないか。
他のプジョーならば、自分の持っているキーでドアが開くわけがない。
とにかく、家に帰ってみよう。
聡一郎はイグニッションキーをひねり、車のエンジンをかけた。
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