現実

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その日から猛の知りえる、親方の闘病生活が始まった。 仕事をきっちり終わらせ、毎日妹と病院へ通った。 親方の症状については、不安にさせない為、会社の人間には言わなかった。 リョウさん、マサカズそして、妹とミナこの4人だけにしか他言はしなかった。 ミナへ気持ちを伝えた時期と丁度重なるのだが、当然そんな浮ついた気持ちは封印し、親方に専念した。 その日から数週間が過ぎた。 いつものように、病院へ行き親方のいる病室へと入り、親方に話しかける。 親方は【あの日】よりも元気になってるように感じた。 毎日、猛が見舞いに訪れる為、無理をしていたのは否めないが・・・。 相変わらず、声は出せないものの、猛の言ってる事は理解し、震える筆先で文字は書いてくれていた。 だんだん、小手先の力もなくなりつつあり、文字も読みにくくなってきているのが気になっていたが、それを【読めない】と言うのは絶対に避けようと思い、分からなくても笑顔で理解したそぶりを見せていた。 その【ウソ】が、たまらなく辛かった。
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