現実

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一方、ミナへ何を伝えたのかさえ、定かではなかった咲は、電話から聞こえる、無情で一定な不在音をただ、右から左へと聞き流していた。 (お兄ちゃん・・・) 脳裏に笑って自分を見つめる兄の姿が浮かんできた。 (何してんねんな・・ はよ、お兄ちゃんん所に行ったらなあかんやん・・) 思わず冷静になり、身支度を始めた。 数分後には、自転車に乗り込み駅まで疾走した。 病院までの小一時間、不安に包まれながらも、兄を信じ続ける咲であった。 一足先にN病院へと到着したミナは慌てて受付に走りこんだ。 ミナ:「すみません!!! 今、手術を受けてる猛君・・ ううん・・ 高橋猛君はどこにいますか?」 受付:「え?は、、はい」 慌てふためくミナを見て、受付の女性は驚きの表情を浮かべつつ冷静に対処した。 受付:「手術室は、そちらの廊下を直進して、二つ目の廊下を右です」 ミナ:「は、、はい。 ありがとう・・・」 御礼を言ったミナの目からは涙が溢れていた・・・・。 廊下を早足に歩き、手術室を目指した。 一歩、、また一歩と歩くに連れ、頬を伝う涙の量は増えていった。 廊下を左に曲がると、目に入ったのは、赤く輝く【手術中】のマークであった。 そのマークのすぐ下に、両手を合わせて面長をさすりながら、その手術を待つ兵頭の姿が目に止まった。
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