現実

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木下の問いかけに、眼は瞑ったままではあったが、猛が反応した。 猛:「・・・・・・・・・」 木下:「何か言うたか? なあ、猛君?」 猛:「オカン・・・ 咲も会いたがってるんや・・・」 キレかかった灯火のような声であったが、確かに猛はそう呟いた・・・ 兵頭:「今、【オカン】て言うたよな?」 ミナ:「うん、確かに」 咲:「昔、ウチが母ちゃんに会いたいって言うてたから・・・ お兄ちゃんは無意識にその事を気にしてたんかな?」 木下:「どうかは分からんが、まだ意識はないみたいや・・・ やけど、 無意識とは言え、思考が繋がってるってのは大きな収穫や・・・」 木下の表情が明るいモノになっていく。 その表情を見て、ミナは気持ちが楽になり、身体の力が一気に抜けた。 横にあった椅子に腰をかけ、猛の事を覗き込んでから、天を仰ぎ深い深呼吸をした。 そんなミナの姿を見て、これまでの行き詰まった重い空気が、すごい覚悟の元で巻き起こっていたんやと肌で感じた。 それだけ、一瞬にして病室の空気が一変した。
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