現実

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木下が猛の病室を訪れた時、その場は沈黙した重い空気が支配していた。 木下は真摯な面持ちで、猛の方へと歩を進めた。 木下:「猛君・・ ホンマに良かった。 君の回復をみんなが心待ちにしていた・・・」 敢えて、親方の事には触れる事なく、うつろな目線を繰り出す猛に対して言葉を並べた。 猛:「・・・・・木下さん 親父に会わせてくれへんか?」 猛のその言葉に、【苦しさ】が浮き上がってきた。 山川の死に対する悲しみを隠し通す事が出来なくなった。 木下:「猛君・・申し訳ない 僕が力不足やったばかりに、山川さんを救う事が出来んかった。 君との約束を守れなかった・・」 そこまで喋り終え、木下は場所も関係なく涙を流し出した。 猛:「木下さん、上向いて下さい・・・ そんな姿、親父が見たら、ケツ思い切り蹴られますよ? 木下さんは最後まで頑張ってくれたんやって、リョウさんからも聞いてます。 俺は・・・・ 木下さんにもろたこの命・・・・ 大事にします。 それをどうしても親父に伝えたいんです。 親父の所へ連れてってもらえませんか?」 木下:「・・・・・・・」 (ぐう・・・・自分が情けない。 猛君はなんて精神力をしてんねや・・・) 猛:「木下さん?」 木下:「ああ・・・ 一緒に行こう・・・・」 猛:「木下さんおおきに」 木下:「・・・・・」 木下は首を左右に振り、その言葉を受け流した
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