現実

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少しでも負担が少ないよう、兵頭は猛を抱え立たせる・・・ 猛は兵頭に身体を任せつつ、親方の方へと歩を進めた。 親方の前へ立ち、その顔を見た瞬間・・・・・ それが現実であると認識した。 分かってた事・・・ 親方の分まで、全力で生きようってそう決意していた。 やけど・・・・ その姿を目の当たりにし、そう簡単に割り切れるモノではない・・・ 猛:「親父・・・・ どないしてしもたんや・・・・・ 俺らほったらかして何寝てるねん・・・ はよ起きて、一緒に酒飲もうや・・・・」 猛は呟くように言葉を発しながら、しっかりとした【眼】で、親方の姿を見続けていた。 その顔は、死してなお尊敬する親方に対して、最大の敬意を表しているようであった。 猛は沈黙を混ぜつつ、言葉を続けた。 猛:「くっ・・・ こんなに冷たくなってしもて・・・」 その顔に手をあて、その冷たさに感情を抑えきれなくなっていた。 最早、気丈に振舞う雰囲気は不要であった。 猛はそれ以上は親方と会話をする事なく、ただ涙にふけっていた。 親方の眠るベッドに両手を付け、親方の顔を見て、無言で二人だけの会話をしているように周りには写っていた。 そんな姿を見て、誰も猛に声を掛ける者はいなかった。
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