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猛:「何を泣いてるんや?」
ミナ:「ううん・・・ゴメン
何でもない・・・・」
父親がそういった考え方である事を理解した上で、目の前に立とうとする猛を見て、感慨深い気持ちになっていた。
『もうそろそろ帰ってくると思うよ?』
雰囲気を和まそうと笑顔で振舞う母親の顔にも、少しだけ緊張の色が見受けられた。
一番緊張しなければならない立場の猛が一番冷静であった。
しばらくして、車の排気音が微かに聞こえ、玄関のドアが開く音がした。
『帰ってきた!』
母親のその言葉は今日という日の始まりを告げた。
『どうも、こんにちは』
父親の最初の一言は意外にも、普通の挨拶であった。
猛:「初めまして、私、高橋猛を申します。
本日はお忙しい所、申し訳ありません。」
猛からも普通の挨拶を返した。
その挨拶に対して、父親は小さく頷き、二人の正面へと腰を据えた。
『ゆっくりしてくれ』
父親はそう話すと、視線をミナの方へと向けた。
猛:「ありがとうございます」
(まあ、歓迎はされてへんみたいやな・・・)
猛はその雰囲気を捉え、そう感じていた。
『猛君・・・だったかな?
ご両親はどんなお仕事を?』
ミナ:「ちょっとお父さん、どういう事? 猛君に親が居ない事知っててなんで・・・・」
ミナが怒りを露にして、父親に突っかかるその途中で、その行動を制止し、猛は答えた。
猛:「申し訳ありません。
訳あって、ホンマの母親とは連絡取れない関係です。
父親とも、中学以来一度しか会った事ないですけど、ヤクザ者になり下がってました・・・
育ての親は、去年他界してしまいました」
そう纏めた猛の表情に負い目などは一切感じられなかった。
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