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「じゃあ、僕の何が悪いの? どうしたら、また魔法が使えるようになる?」
「そんなに、魔法を使いたいか? 別に魔法が使えぬ人間がいないわけではあるまい」
「使えなきゃダメだよ。僕は、この国の王子なんだ。いつかは父さんの後を継がなきゃいけない。父さんに認めてもらえるくらい強くならなきゃいけないんだ!」
必死に訴えかけるシグの瞳は、うっすら涙がにじんでいるようにも見える。
「そんなに父親に認めてほしいのか?」
「だって、父さんは王様だもん。父さんが認めてくれたら、みんなが僕をみとめてくれるようになるんだ」
(認めてほしい…か)
女性は膝をつき、目線をシグに合わせる。
「シグ、一時だけ妾の弟子にならぬか?」
「賢者の…弟子」
「悪い話ではあるまい。期限はもうすぐ長期休みじゃろ? その間だ。だから学校を辞める必要はない」
だが、シグは視線を反らして悩み始める。
「でも、僕は闇の属性を持ってないし、闇の魔法を覚えたくはないです」
「直球じゃな。まあ別に無理にとは言わん。それに、妾も闇の魔法を教えるつもりはないぞ。闇の女王とは言われているが、ちゃんと自然を司る蒼魔法も、補助や強化を担う赤魔法もあつかうからな。…まあ、再生と生命の光魔法は無理だが」
「…でも、なんで僕なんです?」
「シリスに頼まれた。…というのは建て前じゃ。本当は、お前が昔の妾に似ていたからだよ」
女性は立ち上がり、背中を向ける。
「終業式の日に使いをよこす。来る気があるなら荷物をまとめて校門のところで待っていろ」
そう言うと女性は教室をでていく。シグは、女性がいなくなったドアの方をしばらく見つめていた。女性は教室から離れ、暗くなった廊下を歩いて外へ向かう。
「あの歳では少し賢すぎないか? それに、思ったよりも闇は深そうだ」
「話してみてよかったじゃろう。しかし、本当に弟子にしてくれるとはな」
「決めるのはあの子だ。…だが、来たならできる限りのことをすると約束しよう」
待ち伏せをしていたシリスの前を通り過ぎ、女性の姿は闇へと消えていった。
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