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「はぁ~……、終わった」
小さく呟いて、背もたれに寄りかかり時計を見ると、7時。
今日は珍しく商談の取り付けがない。
久しぶりに早く帰ってみてもいいか……。
何故か理由も分からずにそう呟いて、ひとまず運転手に連絡する。
山本さん、というらしい。
「あぁ、雅だ。今から迎え頼めるか?……あぁ、じゃあ着いたら連絡してくれ」
携帯を切り、再び背もたれに寄りかかって、目を瞑った。
俺は、雪村を千恵の代わりにしているのか?
『今疲れてるんだ。一人にしてくれ』
『ねぇ、遥香。何で怒ってんの?』
『怒ってない。……泣くなよ』
『だって……』
『悪かったって』
『うん。いいよ。お仕事お疲れ様』
千恵は、よく泣く奴だった。
それに比べてあいつは……。
あんなに酷いことを言われて、微笑んで頭下げて。
理不尽な契約にだって了解だして。
全然違うんだ。
千恵とあいつは。
それでも雪村さんの娘の二枚の写真を見た時、真っ先にあいつを選んだのは……。
恐らくは千恵のせいだ。
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