第二章:好意と憎悪は紙一重

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「お待たせ」  そして、夜。つまりは夏祭り二日目。  昨夜、僕は祭りを楽しむどころか、愛美をストーキングする男をストーキングするという極めて不健全な行為に走っていたし、愛美や宙だって奴を罠に嵌めるために祭りに興じてもらったのだけど、馬鹿正直に楽しめた筈はない。  なので、昨夜や今朝の面倒事を忘れて三人で楽しもうと提案した。  すると、浴衣の着付けをするから先に神社の鳥居の前で待つように言って、僕を家から閉め出したのだけれど。  遅れてやって来た宙の隣に愛美はいなかった。 「あれ、愛美は?」 「妹さんなら中学校の友達を呼んで一緒に回るそうよ」 「え、そうなの?」 「らしいわ」 「……そっか」 「なによ。私じゃ役不足って言うのかしら?」 「そんなことないよ。……浴衣、似合ってる」 「……そう、かしら?」  羞恥心に耐えつつ、ここは素直に褒めるべきだと真顔でそう告げた。  すると宙は頬を赤らめ、それから弛緩させる。鮮やかな赤色の浴衣に紅色の帯、髪を後ろで結わえた祭り仕様に着飾った上に、珍しく柔和な笑みを浮かべるので僕はすっかり見惚れてしまう。 「み、見世物じゃないわよ」 「ご、ごめん!」  な、なんだこの甘酸っぱい青春臭は。  二人の思春期まっしぐらの男女が向かい合って顔を火照らせるなんて。 「えっと、それじゃあ……行きましょうか?」  と上目遣いに言われたらまた僕は見惚れてしまい、 「あ、うん」  不覚にも気の抜けた返事をしてしまう。 「楽しみましょうね?」  宙が恥ずかしげに手を差し出して、僕はその手を遠慮がちに握った。触れ合う肌の温もり、柔らかな肌触り、高鳴る鼓動。  顔から足の爪先まで熱くなった僕らは祭りの熱に誘われるように鳥居の下をゆっくりとくぐっていった。
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