第三章:悪意の理由は善意

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 お昼休み。  私の家族事情として、母は仕事で毎朝早く出て行き、私の半身であった妹は……私の劣化コピーを襲うも返り討ちに逢い、今は冷たい牢屋の中にいる。  加えて、私は低血圧なので朝早く起きてきびきびと行動出来ない……こともないのだけれど、する気はない。  よって、お弁当なる物は当然ある筈もなく、学校生活での昼食は完全に食堂か登校途中のコンビニに頼り切っている。  今朝はいつも以上に朝が辛かったため、寄り道する暇がなかった。  手元に空腹を紛らわせる物はなく、昼食のために食堂の長蛇の列に並ぶことを考えると、嫌気が差す。  いっそのこと、今日は昼食を抜いてしまおうかと思い、腕を枕に机で眠り伏そうと身体を折り曲げようとした時、ツンツンと背中を指で突かれた。あらやだ、鳥かしら。  疲れてますの、と嫌がる雰囲気を滲ませながら、振り返ると、未だに顔と名前が一致しない婦女子三人が私を覗き込むように立っていた。  私を啄むように背中を突いた婦女子……以下、鳥女と命名。ふわっふわの金髪が羽毛のようだし、ちょうど良いでしょう。なにあれ、地毛かしら?  で、その鳥女が他の二人を代表して用件を告げる。 「相沢さん、私達と一緒にお昼食べない?」  はい? 貴方達と、一緒に、お昼、……私が?  予想だにしない展開に、目を点に収束してしまう。そこから、忌まわしい苗字で呼ばれたことに気付いて、眉に深い皺が刻まれる。  やだ、私ってば醜態を晒してしまったわ。お恥ずかしい。  すぐに顔中の筋肉を引き締め、鳥女、次いで後ろの二匹の小判鮫に目を向ける。  鳥女はニコニコと逆に無表情よりも感情を読み辛い笑顔で本心をひた隠しにしている。あーら、感じ悪いわね。小判鮫Aは少し不安げな顔付き。私と関わるのが嫌か、もしくは私が同意しないのではないか、といったところでしょう。おそらく前者ね。そして、小判鮫Bは私のことなどどうでも良さげで、むしろ教室の端に固まっている男子の群れの長に向けて、熱い視線を注いでいる。穴でも開きそうなほどだ。  閑話休題。これは無下に断り辛い。何故か教室中の視線が私達に集中しているからだ。まるで気難しい珍獣と触れ合おうとする勇気ある芸能人を見るような視線だ。私は珍獣じゃなくってよ?  しかし、突っぱねてわざわざ角を立てれば後々面倒ね……。
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