第三章:悪意の理由は善意

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 と、長考している間に勝手に事態は進んでおり、気付けば長蛇の一部と化している私がいた。  考えている途中でしつこく話し掛けられて、適当に相槌を打っていたからかもしれない。  世の中は私を待ってくれるほど甘くないってことね。キーッ、悔しい! 嘘ですけ「相沢さん、ほら。空いたよ? 何食べるの?」……割り込まないで頂戴。  券売機をざっと見渡して、無難なきつねうどんを選択。一杯二百五十円と非常にリーズナブルである。  その食券を食堂のおばさんに渡すと、ものの数分できつねうどんが出来上がり、手渡された。これだけ沢山の学生相手に仕事をしているだけあって、素早い。  と、感心している間に鳥女に背中を押され、あらかじめ陣取ってあったらしい席に座らされる。  隣に鳥女、正面に小判鮫A、その隣にBという配置だ。  人で溢れかえる食堂内は騒がしく、顔も名前も知らぬ男子達からの視線とも合わさって、不快指数が臨界点を突破しそうだ。ジロジロ見ないで下さる? 閲覧料取るわよ。 「いただきます」  ツンと済ました表情を作り、先にうどんを啜る。……意外と美味しいじゃない。  こののど越し、揚げの甘みが染みた出汁。たかが学生食堂と侮るなかれ。 「あの、相沢さん」 「……なにかしら?」  せっかく、盛り上がってきたのに水を差さないで欲しいのだけれど。  いつの間にか私に習い昼食を食べていた鳥女一行の小判鮫Aは、私の顔を窺いながら怖ず怖ずと口火を切った。なんだか私が苛めているみたいじゃないの、この構図。あと、苗字で呼ばないで欲しいの。耳にノイズが。 「相沢さん、ってさ……いつも遠峰くんとご飯食べてるよね?」 「……そうだけど?」  何故かしら。何故あの男の名前がこの場で出るのか、私さっぱり分からなくてよ。だいたい私がこの場にいるのだっておかしいというのに……。 「仲、いいよね」 「それほどでも……ないと思うけど」  焦れったい子ね! 用件だけさっさと告げてくれれば、いいのに。 「……もしかして、相沢さんと、遠峰くんって……付き合ってる、のかな?」  ピシッ。
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