第三章:悪意の理由は善意

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「んんっ……」 「あ、相沢さん。起きた?」  お陰様でね。私は心のうちで皮肉を吐き出して、落ち着いていかにも起きたばかりだという風に装った。 「……何か私に用かしら? えっと、遠藤……さん?」  彼女は笑顔の質を苦笑に変えて 「近松だよ、一文字も合ってないよ?」  怒りもせずに私の無礼をあっさりと流してしまう。  調子が狂うわね……。近松さんへの苦手意識が浮き彫りになるのを自覚して、私は視線がかち合うのを避けながら、彼女との会話に付き合うことにした。 「ごめんなさい、近松さん。それで、何か用かしら?」  私の質問にまた彼女は笑顔の質を変えて、パァッと花咲くような明るい調子でこう言った。 「相沢さんと一緒に帰ろうと思って、ね?」  ……はぁ。  ……はぁ?
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