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「あ、の、その……え? っと」
「どうしたの?」
「な、んでも……ない、わ」
「そう?」
私が取り繕うように浮かべた笑顔に応えて、彼女は「変なの」と可笑しそうに笑った。
可笑しそうに、おかしそうに。
気付けば、私はそんな彼女の微笑みから逃げるように背を向けいて、得体の知れないのなにかに怯えるように自分の家に駆け込んでいた。
ガチャガチャと乱暴にな手つきで施錠をして、背を扉に預ける。
息が乱れ、虚脱感が全身を苛んでいる。膝が笑っていて満足に立つこともままならず、私は崩れ落ちるように玄関に膝をついた。
「……ッ」
彼女は、――近松さんは“関係者”だった?
――彼女は知っているのだろうか?
全てを。
私のことを。
いえ、仮に知っていたとして私の前であんな風に笑っていられるわけが無い、はず。
やはり知らない? ……でも。いや、そんな。けれど。
――そうだわ。そもそもあの家に住んでいるからといって“関係者”と決め付けるのは早計だわ。
何も知らない赤の他人かもしれないじゃない。
そう、大丈夫、大丈夫よ。
彼女が“あの少女”なわけがない。
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