第三章:悪意の理由は善意

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「え、どうしたんですかっ。急に」  けれど、私は足掻こうと思う。空が攫われたと決め付け、その犯人がこの街に住む人間だと盲信して。 「あの、聞いてますかっ? ませんよねっ?」 「早速、準備しましょう」 「はいっ?」 「ああ、そういえばここに居たんだったわね。お兄さんはそのうちフラッと帰ってくるだろうから、心配しないで帰りなさい」 「え、いやでもこれ」 「帰りなさい」 「……」 「任せなさい」 「わかり、ました」  気圧されて、渋々と頷く愛美ちゃんを促し、私たちは家から出た。  愛美ちゃんはきっと訳が分からないだろうけど、私自身訳が分からないから問題ない。  鍵を掛けて、薄汚れた扉を一瞥し、踵を返した。  次、ここに来るときは空と一緒に。誓いのような決意を胸に、私たちは遠峰家を後にした。
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