第一章:鏡の中の鏡

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 今僕は所謂、鳩が豆鉄砲食ったような顔をしているはずだ。僕の初めての鳩豆が奪われて、何となく汚された気分になった。もうお婿に行けない。 「今日、ドッペルくんの家に行ってもいい?」  学食で並ぶのが面倒で、今日も保健室でカップ麺を無銭飲食していたら、突然宙にそう尋ねられた。宙が転校して来て三日目の昼休みのことである。ってか何故一緒に昼飯を……。  閑話休題。あれ、いつの間に友好度上がったの? ってか僕が一方的にドッペルゲンガー扱いされてね? 「ちょっとー。あたしの家でラブコメらないでよー」  僕が困惑し、挙動不審に陥りかけていたら、保健室の精霊もとい先生が、カップ焼きそばで白衣を汚しながら半眼で睨んできた。毎日洗濯しないといけませんね、その白衣。 「「ラブコメってません」」 「そっか。じゃあ先生とラブコメりましょうか」 「はぇ?」  先生は一瞬で席を立つと、懐に潜り込んで来てグイッと僕の頭を抱え込んだ。あまりに自然で素早い動作に僕は間抜けな声を上げただけで身じろぎ一つ出来なかった。 「んー、空くんの匂いがするわー。鼻孔活性化~」  ちなみに僕の鼻孔はカップ焼きそばの匂いでいっぱいです。  あー、あー、あー、あー? ナニ、コレ? 鳥肌が羽化して、地肌から飛び立ってしまいそうな勢いだよ。 「ちょ、何してるんですか?」 「と言いつつ離れようとはしない空くんなのでした」 「でっせい!」  突き放した。が、避けられて首筋を吸われた。 「うきゃぁーっ!?」  あばばばばばばばばばばばば。  蛭の如く張り付いて、僕の人としての尊厳とか若さとかその他諸々が吸っていく。  この時、僕の脳裏には十六年間の出来事が走馬灯のように駆け巡ったのだった。  あー、精神的に死にそう。尋常ではない心の負傷具合に僕は床に倒れ伏し、消毒液臭い床で悶える。視界の端に呆れと批難と侮蔑を多量に含んだ視線で僕を見詰める宙の姿を捉えた。  軽く引きこもりたくなった。
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