第三章:悪意の理由は善意

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 待つばかりだった一日もようやく終幕が近付いてきたようだ。  日が傾いて人の影もまばらとなった校舎内で、西日を一身に浴びながら机に頬杖を着いているのも、これまた青春だろうかとぼんやりと思い浮かべる。 「……へくちっ」  ……煩わしいむず痒さだ。鼻を掻き毟りたい衝動に駆られる。  閑静な教室で独り虚しくくしゃみをしたことに、誰へともなく苦言を洩らしたのは気恥ずかしさからではない。断じて。 「風邪?」 「花粉症」  後ろからの声に条件反射で答えてしまってから、本人を確認しようと振り返る。  目に刺さる夕日で、眩しそうに目を細めた小動物のような女生徒が後ろ手を組んで、こちらに微笑み掛けていた。 「あ、あのそのよかったら、その一緒に帰りませんか!?」  踏鞴(たたら)を踏んだような調子の声に、思わず頬が緩みそうになる。初々しいというかなんというか。ああ、撫で回したい。 「えと、……駄目です、か? ですよね、ごめんなさい!」 「一緒に帰るくらい、別に構わないよ」  断わる理由もないわけだし。  思わぬ快諾に彼女は一度目を丸くし、少ししてから照れ笑いを浮かべた。
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