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待つばかりだった一日もようやく終幕が近付いてきたようだ。
日が傾いて人の影もまばらとなった校舎内で、西日を一身に浴びながら机に頬杖を着いているのも、これまた青春だろうかとぼんやりと思い浮かべる。
「……へくちっ」
……煩わしいむず痒さだ。鼻を掻き毟りたい衝動に駆られる。
閑静な教室で独り虚しくくしゃみをしたことに、誰へともなく苦言を洩らしたのは気恥ずかしさからではない。断じて。
「風邪?」
「花粉症」
後ろからの声に条件反射で答えてしまってから、本人を確認しようと振り返る。
目に刺さる夕日で、眩しそうに目を細めた小動物のような女生徒が後ろ手を組んで、こちらに微笑み掛けていた。
「あ、あのそのよかったら、その一緒に帰りませんか!?」
踏鞴(たたら)を踏んだような調子の声に、思わず頬が緩みそうになる。初々しいというかなんというか。ああ、撫で回したい。
「えと、……駄目です、か? ですよね、ごめんなさい!」
「一緒に帰るくらい、別に構わないよ」
断わる理由もないわけだし。
思わぬ快諾に彼女は一度目を丸くし、少ししてから照れ笑いを浮かべた。
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