第三章:悪意の理由は善意

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 近頃の夜は足が早い。18時にはもう、空は紺碧色の表情を浮かべている。  夜闇を照らす街灯の周りを除けば、世界は昼間とはまるで別の世界のようだ。  遥か前方では、部活帰りの男子生徒の賑やかな声が聞こえるくらい辺りは閑かである。  そして、並んで歩く二人の間も静けさが漂うのみであった。  黙って歩くだけなら、何故誘ったのだろうか。意図を探ろうと彼女の顔を窺うも、濃い影が表情を覆い隠しているためどうしようもない。  居心地の悪さをひしひしと感じるが、生憎同年代の女子と盛り上がれるような話題は持ち合わせていない。  困ったものだと頬を掻いた。あ、蚊に吸われてる。 「……のっ」 「え?」 「あのっ!」  突然大声を上げるものだから、一瞬心臓が縮み上がった。余韻で小刻みな鼓動を奏でる胸を撫でながら、用件を問うた。 「あのっ、ですね。えーっとぉ……」  急に声を上げたり、言い淀んだり、はっきりしないなぁと胸中に煩わしさが顔を出すのに合わせて、彼女は大きく息を吸った。  そして吐き出す勢いに身を任せて、彼女はずいとこちらに身を寄せて。  髪を強く引っ張った。
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