第三章:悪意の理由は善意

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 ◇ ◇ ◇  あっという間の出来事だった。あまりに唐突で、僕は反応することすら出来なかった。宙の背後に人影が見えたと思った数瞬後には宙は壁に押し付けられ、その細く白い首を絞められていた。 「……ち、かま、つさん?」  ふわりと金髪が勢いのままに舞い上がる。苦しげに呟く宙を襲った人物はどこか既視感のある少女だった。  宙は逡巡ののち、自分のおかれた状況に気付くと大きく目を広げた。驚愕する顔である。柔らかい首の肌に少女の手や指が食い込んでいく。  宙はもがき、がむしゃらに動いて暴れるも押さえつける少女を押し退けることは出来ない。少女はただ、着実に宙を死に追い詰めていった。そう、今少女は宙を殺そうとしているのだ。  そこでようやく僕は彼女たちのやり取りに目を奪われ、立ち尽くしていたことに気付く。  刻一刻と命の灯火が消えようとしている宙を捨て置いていたのだと。  
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