第一章:鏡の中の鏡

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 というわけで、ドッペルゲンガー御一行は遠峰家に到着したのであった。 「ふーん、ここがクローン生産工場かぁ」 「や、違います」  宙は自分の生まれ故郷であるクローン生産工場、もとい僕の家をしげしげと眺め回す。そして僕は宙の様子を舐め回すように眺めていた。後半部は語弊があるので注意。 「なんだか趣のある家ね」 「それは褒めているのか、皮肉ってるのかどっちなわけ?」  宙は答えずに、目で僕へと訴えかける。貴方の考えてる通りだよと。そーか、皮肉ってるのか。  それにしてもこう安易に思考を盗み見るような真似をされると癪だ。顔が同じなんだから頭くらい別々に稼働させようよ、ねぇ?  慣れてきたが、たまに気が滅入りそうになる。この国の個人情報保護法は僕の頭の中まで手を回してくれるほど、暇じゃないんだろうな。  だが、互いに筒抜けというわけではないらしい。やはり男は単純な生き物で、女は複雑怪奇な生き物なのだ。時々、何を考えているのかさっぱり分からない。不公平だ。この国の憲法は一人一人平等な権利を持つことを記述していたのではなかったのだろうか。  とまぁ不平不満を国家権力に軽く訴えたところで、……っておい、こら。 「鍵かかってる」  宙が扉と格闘しながら、一般常識に異義を唱える。 「当たり前だろ。ガチャガチャするな、ノブが壊れる」 「いや、君の家なら開いてるかなーって」  どういう偏見だよ、それ。内心毒づきながらも、ぱっぱと鍵を開けた。 「お邪魔、します」  宙は何故か妙な溜めを作って入場挨拶を済ますと、ローファーを脱いで遠峰家の玄関に入った。  そして辺りをきょろきょろと見回し、僕に振り返った。 「ご両親は?」 「僕は一人暮らしなんだ」  淡白な問答を終えた宙はそっかと納得した素振りを微塵も見せずに、曖昧な返事をした。  宙は家主の許可も得ずに勝手に奥へ行き、僕の部屋の中をうろつくいて探索を開始した。  僕はそれを傍目にソファに腰掛けて一息つく。  隣り合った約六畳の殺風景な和室を忙しなく動き回る宙の鑑賞会を始めようとすると、宙は急に動きを止めた。
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