第一章:鏡の中の鏡

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 深夜、ベッドで寝転がりながらぼーっと天井を見詰めるという、虚しい時間を思春期の思い出の一ページとして記録することに励んでいた。  なんだって宙の奴、急にあんなこと言ったんだよ。僕、何かまずいこと言ったか?  それにしても、今日の宙はおかしかったと思う。いや、そこまで親しくなったつもりはないんだけどね。急に僕の家に来たいとか言ったり、人の部屋ごそごそ漁ったり。何が目的なのかはさっぱり分からなかった。  んー……、わからないなぁ。ぜーんぜんわかんないや。 「寝よっか」  深く考えても答えが出る気配がまったくなかったので、今日のところはおとなしく眠ることにする。  電気を消して布団に潜り込むと、すぐに眠気がやってきて、僕は心地よいその感覚に身を任せた。 ◇ ◇ ◇  玄関はゴミ箱をひっくり返した後のような惨状だった。下駄箱からは靴が溢れかえり、割れた花瓶の欠片が散乱していた。  異質で異常な気配が濃厚に漂っていて、自然と息が上がって動悸が早まった。  なに、これ? どうなってるの?  本当はただの誕生日の筈だった。いや、もう“本当”は今の状況になってしまっているのだが。  僕は不穏な空気の中、静かに靴を脱いで花瓶の欠片を踏まないように大股に玄関を跨いだ。  足音を立てぬよう、摺り足で廊下を歩いた。家の中は驚くほど静かで、僕の少し荒い息遣いしか聞こえないほどだった。  半開きになった扉からダイニングをこっそりと覗き込む。  テーブルの上はお母さんが作ったであろう料理が何故か散乱していて、床にもサラダやらステーキやらが虚しく横たわっていた。  そこで、僕はあることに気付いた。ダイニングの向こうにあるリビングに赤い水溜まりが出来ていることに。  そして、部屋の中に僕以外の荒い息遣いと錆びた鉄のような臭いがすることに。
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