第一章:鏡の中の鏡

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 目覚めるとまだ四月末だと言うのに、汗が滝のように流れ出ていた。  がたがたと全身が震え、がちがちと歯が鳴り、心臓が早鐘を打つ。  シャワーに駆け込んで全身を流して、震える腕で身体を包み込む。  ノイズが頭にガンガン響き、激しい頭痛に苛まれる。  気持ちが悪くなって、喉の奥から強い吐き気が込み上げて来て、うずくまって嘔吐した。酸の効いた臭いで鼻がむせ返り、再び嘔吐する。そのまま、涙を流しながら、胃液と中身を吐き出し続けた。  ようやく嘔吐が終わると、僕の体は力を失ってびちゃりと床に倒れ伏した。  シャワーが上から降り懸かり、下には流れきっていない吐瀉物が僕の顔に付着した。  眠い……。窓の向こうから日が差し込んでいるのにも関わらず、僕はとてつもなく眠かった。瞼がゆっくりと降りてきて、視界が徐々に闇へと染まっていく。  頭に鳴り響くノイズも、どこか他人事のように感じられて、不思議と不快感は消えていた。  最近、“アレ”をよく見るようになったなぁ。二、三年前までは酷かった。眠るたびに“アレ”が夢に出て来るものだから、恐ろしくて眠れやしなかった。けど、いずれ眠気がやってきて“アレ”の元へと僕を連れていった。生き地獄だったなぁ、あの頃は。  それにしてもいつからだ。急に“アレ”をまた見るようになったのは。……そう、最近だ。ちょうど宙が転校して来て、すぐにだ。畜生、あいつ余計な物運んできやがって。と悪態付いてみたものの宙には関係がないので、ただの八つ当たりに過ぎないな。  ああ、もう駄目だ。何も見えない。眠気もピークだ。気持ち良くなってきた。もしかして、寝たら死んじゃうのかな? 死ぬ、死ぬ? 駄目だ、駄目だ!  僕は、  死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくな……
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