第一章:鏡の中の鏡

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 翌日、午前中に簡単な精神検査を受けた後べったりと山口先生に蛭みたいに張り付かれていた。  昼頃、連絡を受けたらしい妹からの電話と三十分も応対させられた。  昼食を終え、一息ついた頃にはもうぐったりだった。なんか学校にいるより数倍疲れたいみたいだ。これじゃあ家で療養しているほうがマシなような気がする。  溜め息が無限増殖して大パレードを催してしまいそうだった。ああ、憂鬱だ。  それでいて、ようやく手に入れた平穏と自由の時間をどう使おうかと考えて、僕はあることに気付いた。  僕って今とてつもなく暇じゃないか。僕の持ち物なんて何もないし、テレビだってこの時間は何も面白いものはやっていないだろう。  暇な時間を持つというのは幸せなことだと思うのが僕の持論だが、同時に不幸せなことであるとも思う。  暇人は暇を潰すのに忙しい。あー、なんか名言っぽいかも。うん、いつか使う機会を見付けよう。  閑話休題。気分転換に散歩でもしようかと、院内を徘徊すること約十分。やはりめぼしい物は見付からなかった。せめてもの救いが売店にて努力、友情、勝利がモットーの週刊誌とポテトチップスを手に入れたことだ。これで読み返せば一時間以上は潰せると思う。ちなみに財布はなかったのだが、院長の息子だと言ったら払わずに済んだ。やっぱりこの病院の最高権力者なのだと改めて実感した。まぁ、どうでもいいんだけどね。  しかし、町が田舎だからだろうか随分敷地が広いな。中庭なんか、二軒ほど新居が建てられそうである。やっべ、もしかして山口先生って実は凄い人? これからは対応を改めたほうがいいのかもしれない。けど、先生に喰われてしまうのも御免だしなぁ。  ぱりぱりとポテチを咀嚼しつつ例の週刊誌を上の空に眺めながら、ぼんやりと思案する。んー……、やっぱり先生のことは暇な時にでも考えよう。使いたくても使い切れないくらい時間はあるわけだしね。  というわけで、漫画に集中しよう。  と、思った矢先に山口先生が押し入って来て、今夜こそ云々と騒ぎ立てて来たのでおやすみ。
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