第一章:鏡の中の鏡

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 物凄い密度の一日を過ごした僕は一刻も早くシャットダウンしたかったのだが、それを空になった僕の胃が許す筈もなく、仕方なしにカップ麺で済まそうと台所を探検すること約五分。  我が家は食糧難に陥っていることに気が付いた。 「む、村の蓄えがー」  ……閑話休題。このまま眠るという手段もありなのだが、その方針でいくと翌朝には物理的法則を無視して、お腹と背中がくっついてしまいそうなので疲労困憊で歩くことさえ億劫なこの身に鞭を打ち、渋々夜中のコンビニへと足を運ぶこととなった。  道中の夜桜をぼんやり眺めて風情があるなぁと微塵も思っていないのに、呟いてみたりして気を紛らわせなんとか目的地に到着した次第である。  らっしゃーせー、と張りのない気だるそうな歓迎の言葉から、新しく入った学生のバイトだろうと適当に見当を付けて、カップ麺のコーナーを物色していると「あら、ドッペルくん」……不幸だ。  聞こえない振りをして物色を続「あら、ドッペルくん」……うるせー、この野郎。 「ちらっ」 「口だけで目線さえ向けないなんて、中々酷い人ね」 「ははっ、誰のことやら」 「某なんとかランドのネズミのような笑い方をした貴方のことよ」  僕は今、お前と話す体力も気力もないんだよ。勘弁してくれ。 「「今日は疲れている」」 「んだ」 「ようね」  僕が乾いた笑みを浮かべるのに対し、宙はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。 「けれど私は貴方への配慮は一切しないわ」  ……悪女だ。 「そういえば、ドッペルくん」 「空だ」 「ドッペルくん」 「……」 「昨日、一昨日と学校に来なかったようだけどいったいどうしたの?」  ん、もしかして心配されてる? いや、まさか。宙に限ってそんなことは……。 「てっきり私と同じ顔で生まれてきたことを謝罪する意味で自殺したのかと思っていたのだけれど」  やっぱり宙に限ってそんなことはなかった。
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