第一章:鏡の中の鏡

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 日曜日って奴はなんて素晴らしいんだろう。  昨日一日で著しく体力を消耗した僕は、夕食を済ませてすぐに眠りこけ、次に目を覚ました時には既に日は沈んで夜となっていた。  凄く勿体ない時間の遣い方をしたが、まぁ仕方がない。今日が平日ではなくて助かった。日曜日万歳。  閑話休題。まだ頭の中がぼんやりとするが、胃の方は激しく空腹を訴えていたので夕食をとることにする。  僕のここ二日の食生活が夕食オンリーというなんだか常軌を逸した状態なのが少し気に掛かるが、まぁ生理的欲求には逆らえないので、前世代では魔法瓶と呼ばれていた電化製品からお湯を注いで、カップ焼そばの完成を待つ。  ぼーっとしているだけなのもあれなので、テレビの電源を付けてニュース番組を眺めることにした。 『続いて次のニュースです。昨日未明、○○市の路上で腹部がナイフのような刃物で抉りとられた遺体が発見されました。警察の調べによりますと、遺体は××社の会社員Aさんのもので――――仁科レポーターに現場の状況を伝えて貰います。仁科さん――』  画面が変わり、女性レポーターが映った。レポーターは僕が昨日見たあの場所で、昨日の出来事の詳細などを掻い摘んで説明し始めた。  しばらく画面を食い入るように見つめて、ニュースに聞き入った。  使われた凶器は刃渡り二十センチ、幅五ミリを超えるナイフらしい。包丁などではなく、人を斬ることを目的としたナイフと思われ、おそらく軍隊等で使われるアーミーナイフに近いものだそうだ。どうやって犯人がそんなものを手に入れたのかは、密輸されたものだろうと専門家は推測したそうだ。  ……物騒なものだ。というのが僕の個人的な感想だった。そして、同時にそんな凶器を持った人間がまだこの近くで息を潜めているかもしれないと思うと、堪らなく恐ろしかった。  僕はその犯人に殺されるところを想像し、身震いする。死ぬのは怖い。よかった、やはり僕はまだ僕のままだった。あの死体を見た時は何の恐怖も感じなかったが、僕が死ぬと思うと身体中の穴という穴から冷や汗が吹き出てきた。  死、そのものを恐ろしいと感じるのもそうだが、僕は僕が死を恐れないということも恐ろしかったのだ。僕が僕でなくなる。そうなることもまた、堪らなく恐ろしかったのだ。  僕は心から安堵し、ふと時計に目をやった。既にあれから十分が経過していた。
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