第一章:鏡の中の鏡

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 今日は月曜日だった。ちきしょう、学校行かないと。  起きてすぐに、何気なく携帯電話の液晶に目をやると着信履歴が三十件も残っていて、着信通知のランプがぴかぴかと光っていた。え、なに? モテ期ですか、やほーい。  あまり使わないため新品同様の携帯電話はボタンが固くて、長時間の使用には向かないなーなんて考えて履歴を見た瞬間驚き、桃の木、山椒の木。  着信履歴――妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、先生、妹、妹、妹、妹、妹。  あれ、目の錯覚か? 一人変な人が居たような……うん、きっといなかったな。って、妹にモテ期の効力を遺憾なく発揮するなんてシニカルですなー。  何用だ、御用だ。要件窺ってやらないと今晩の着信履歴もシスターカーニバル略してシスカニになりそうなので静かに夜を過ごしたい僕は兄電波を妹に発信することになった。すると――、 『で、何の用? で、何の用? で、何の用? で、何の用?』  と、何故か電子音に加工された僕の声が押し入れの方から何度もリピートされた。  呆気に取られていると、兄電波が妹に届いたようで電話が繋がった。 『「すーはーすーはー、にーちゃんの汗の臭い……。……………………ふぅ。あ、もしもーし? にーちゃん?」』  肉声と電波を介した声がステレオで僕の耳に届く。……色々突っ込みたいがマテ。  押し入れの襖をスパァンッと快音響かせて開くと、先月ベッドを買うまで使っていた敷き布団に顔を埋める、妹の姿がそこにはあった。  ラジオ体操で流れる、伸び伸びと深呼吸ーっ! ってあれの模範になりそうなくらいしっかりとした深呼吸で布団の臭いをくんかくんかしている妹の姿がそこにはあった。大事なことだろうから、二度言った。 「おや、お嬢さん。何をなさっているのかな?」  あくまで紳士的に。僕は妹と思われる変態に尋ねた。電話と肉声の二重音声で。  すると、顔を上げた妹はにっこりと、その端正な作りの顔にあどけない満面の笑みを浮かべ、こう言った。 「ただ今、使用中で」  スパァンッ! と襖を閉じてやった。清々しい朝である、と起きるところから仕切り直したいんだが。  そしてその着信音はやめろ。
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