第一章:鏡の中の鏡

24/43
前へ
/139ページ
次へ
「変態」 「変態じゃないです。例え変態だとしてもあたしは変態という名の淑女です」 「成る程、ご近所さんから顰蹙を買う女――略して蹙女、と」 「読み方しかあってないっでば! まったく、もー」  長いサイドテールをゆっさゆっさと揺らしてギャースと叫ぶ蹙女へ冷淡な視線を送ってやるがそんな意図には微塵も感じず、頬を茹で蛸のようにしながら「じろじろ見ないで、恥ずかしい」と柄にもなく妹は照れた。いや、勘違いも甚だしいよ。 「なんで、うちにいるわけ?」 「愛鍵作りにっ! それとにーちゃん成分の充電に来たっ!」  多分、字が違うよな。そして発想が先生と変わらないぞ、こいつ。変態決定宣告しないと。 「合鍵なんて勝手に作るなよ。別にいらないだろ。妹は叔母さんの家で静かにしておけばいいのに」 「そんなことないってば、もー。あたしが居ないと寂しい癖にー、うりうりー」  うっぜ、こいつうっぜぇー! 「兎に角、さっさと帰れ。学校行け」 「えー、今日はにーちゃんと一緒にいるー。学校休むー」 「僕も学校だし、嫌だし。帰らないと次、泊まらせないぞ」 「うー、意地悪ーっ! あ、でもあたしMだからにーちゃんがSでも大丈」 「帰れっ!!」  言葉を遮って、家から無理矢理追い出し、鍵二つにチェーンを付けた。  しかし、すぐにガチャガチャと音がして鍵が開き、僅かな隙間から妹の大きな目がこちらを覗く。 「にーちゃん、酷いっ!」  頬を膨らませ、機嫌を損ねた声で叫び、勢いよく扉を閉めて、大きな足音をたてて去っていった。  頭が痛くなる朝だ。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

427人が本棚に入れています
本棚に追加