第一章:鏡の中の鏡

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 陰欝な月曜日の朝、予想外のハプニングというべき事態に著しく気力を削がれた僕は、登校後すぐに机に突っ伏した。  目を閉ざし、睡魔に身を任せようとするも周りの騒音が耳につき、眠ることが出来なかった。  取り敢えずそのままで過ごそうと判断し、楽な姿勢になろうと首のポジショニングを図っているとわざと大きな音を立てて近寄って来る足音が耳に響いた。  そんな安眠妨害めいた行動の主は考える迄もなく分かっているのだけれど、僕は休息に徹するので、ここはスルーさせて頂きたいです。  息を殺して嵐が去るのを待つのだが、僕の周りをうろつく気配や顔を覗き込もうとする気配を過敏に感じ取ってしまい、思わず体が強張る。 「うぇっ!?」  その気配が僕の側面に回り込んだかと思うと、耳にふっと生暖かい息が吹き掛けられ、ぞくりと背筋が震えた。  がばっと起き上がって辺りを見渡すと、既に席に着いた宙がニヤニヤと笑い、他の生徒達は僕の方を盗み見ながらひそひそと囁き合っていた。  勘弁してくれ。  僕は好奇の視線から逃れようと再び机に体を埋めた。案外、頑張ればすぐに眠くなるのだなぁと意識を手放す直前に一人、そう思った。 「ん……」  携帯電話の着信音が、夢の国をふわふわと漂っていた俺の意識を無理矢理現実に引き戻した。 「……もしもし」 『あ……、もしかして本当に今まで寝てたの?』  呆れと驚きを半分ずつ混ぜ合わせたような声の主を判断するのに、暫し時間が掛かった。  顔を上げ、教室を見渡せばここにいるのは僕一人で、窓の向こうに見える空は茜色に染まっている。 『ちょっと、寝過ぎじゃないかしら? ドッペルくんってば朝からずっと眠りっぱなしよ。起こそうとしてもぴくりとも反応しなかったし。何の為に学校へ来たのか分からないわ』 「うーん……、取り敢えず起こしてくれてありがと。じゃあね」 『ちょっ』  皆まで聞かずに通話を終えた。取り敢えず、頭が働くまで待つことにしよう。  寝過ぎて頭がガンガンと痛み、寝起きでぼーっとしている今の気分は最高にロー。  ようやく頭がすっきりとしたので、だらだらと教室をあとにする。  照りつける夕日は地面を真っ赤に照らしている。まるで血の色だな、と一人でに思った。
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