第二章:好意と憎悪は紙一重

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 僕が入院してから一ヶ月。治療とリハビリの日々を経て、今日ようやく退院することになった。  荷物類は山口先生のご厚意に甘えて、全て車に積んで、家まで送ってもらうというVIP待遇を満喫中である。 「改めて、退院おめでとう」 「ありがとうございます。それと足をすりすり触るのをやめてください。セクハラで訴えますよ。運転に集中してください」 「つれないわねぇ、もう」 「……」 「…………、いっそのことこのままアタシの家に誘拐しようかしら」 「待ちたまえ」  おや、対応が無駄に紳士になってしまったよ、ははは。  年上趣味はないので丁重にお断りさせて頂きたいのだがねぇ、チミィ。  閑話休題。無言の抵抗を続けること約十分。ようやくボロアパートの前に到着した。 「うわー、改めて見ると凄いね。……やっぱりアタシの家に来ない?」  うっさい、ほっとけ。 「口動かす前に手を動かしましょうよ、先生」 「……君は年上を敬わない良い子に育ったねぇ」  どうもっす。僕、勝手に一人でに育ちましたから。暗室に放置しておいたもやしのように、にょきにょきと育ちましたから! 「あっ、と。鍵、鍵」 「あ、いいよ。アタシが開けるから」 「勝手に作った人の家の合鍵を自然な流れで使わないで下さい。っていうか持ち歩くな!」 「愛鍵は肌身離さず持ち歩くわ! はい、ガチャリ。ただいまー」 「先生の家じゃないですから。文字通りお邪魔してるんでしょうが。そして字が違う! ……って、あれ?」 「あ、にーちゃん」 「あ、空」 「あ、ダーリン」  扉を開けると、何故か玄関前で向かい合って立つ、妹と宙がいた。  ……そして先生。どさくさに紛れるな! 色々と。
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