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僕が入院してから一ヶ月。治療とリハビリの日々を経て、今日ようやく退院することになった。
荷物類は山口先生のご厚意に甘えて、全て車に積んで、家まで送ってもらうというVIP待遇を満喫中である。
「改めて、退院おめでとう」
「ありがとうございます。それと足をすりすり触るのをやめてください。セクハラで訴えますよ。運転に集中してください」
「つれないわねぇ、もう」
「……」
「…………、いっそのことこのままアタシの家に誘拐しようかしら」
「待ちたまえ」
おや、対応が無駄に紳士になってしまったよ、ははは。
年上趣味はないので丁重にお断りさせて頂きたいのだがねぇ、チミィ。
閑話休題。無言の抵抗を続けること約十分。ようやくボロアパートの前に到着した。
「うわー、改めて見ると凄いね。……やっぱりアタシの家に来ない?」
うっさい、ほっとけ。
「口動かす前に手を動かしましょうよ、先生」
「……君は年上を敬わない良い子に育ったねぇ」
どうもっす。僕、勝手に一人でに育ちましたから。暗室に放置しておいたもやしのように、にょきにょきと育ちましたから!
「あっ、と。鍵、鍵」
「あ、いいよ。アタシが開けるから」
「勝手に作った人の家の合鍵を自然な流れで使わないで下さい。っていうか持ち歩くな!」
「愛鍵は肌身離さず持ち歩くわ! はい、ガチャリ。ただいまー」
「先生の家じゃないですから。文字通りお邪魔してるんでしょうが。そして字が違う! ……って、あれ?」
「あ、にーちゃん」
「あ、空」
「あ、ダーリン」
扉を開けると、何故か玄関前で向かい合って立つ、妹と宙がいた。
……そして先生。どさくさに紛れるな! 色々と。
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