第二章:好意と憎悪は紙一重

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「にーちゃん! しばらくここに泊めて!」  やって来ていきなりの土下座である。マイシスター、プライドはないのか? 「なんでさ?」 「にーちゃんと一緒に居たいの」 「却下」 「えー、お願い! 一ヶ月でいいから!」 「その言葉のどこに遠慮があるのか僕にはさっぱり分からない」  やれやれ、と芝居掛かった振舞いであしらおうとしたのだが、諦める気配をまったく見せず、しつこいくらいに上目遣いに見つめてくるその姿勢に苛々が募る一方だ。  僕の平和な日常は何処へ行ったのだろうか。どうも宙が転校して来てから乱されていると感じるのは気のせいだろうか、いや気のせいじゃない。 「第一、学校はどうする気だ?」 「今日から夏休みなんだよっ!」  そう言って妹がほら、と取り出したのは大きな旅行鞄。パンパンに膨れ上がっていて、荷物の他に妹の強い怨念めいた物が入っているのかと考えてしまうほどだ。 「にーちゃんの家で夏休みは過ごすって言ってきたし!」  グッと親指を立ててウィンクする妹。手回しはバッチリのようだ。  よく許可したな、と思ったが、大方無理言って抜け出して来たのだろう。一度決めると最後までやり通す精神は素晴らしいが、今回は僕にとって迷惑以外の何物でもない。  はぁ……、面倒だ。 「いいけど、夏休みずっとは泊めないからな」  そう言って甘やかしてしまう僕も僕だ。言った瞬間、やはり後悔した。  妹は目をキラキラと輝かせて、バッと飛び付いてきた。  素早く抱き付いてきて、巻き付いた腕は背中でしっかりと繋がれている。蛇みたいな奴だ。 「こら、離れろ!」 「ありがとっ! にーちゃん!」 「分かったから離れろ!」 「えへへー、にーちゃん大好きっ」  ゾワッと身の毛のよだつようなことを平然と言ってのける。本気で引き剥がしにかかるのだが、こんな細腕のどこにこんな力があるのか、まるで離せる気配がない。  こんな無様な姿を見せるのは嫌だけど僕だけの力じゃ引き剥がすのは無理だ。  宙か先生に手伝ってもらうべく、僕は蛭のごとく張り付いた妹を引き摺りながら居間に向かった。
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