第二章:好意と憎悪は紙一重

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 二人に妹を引き剥がすのを手伝ってもらい、無事妹から解放された。  その後、仕事をサボる先生をとっとと追い返したまではよかったのだが……。 「「……」」  なんだろう、この状況。  引き剥がしたのだが、未だに僕に擦り寄る妹と対面に向かい合う形で宙が妹に熱い視線を向けている。妹も負けじと睨み付けて、二人の間では火花が散っているような幻覚が見えそうなくらいだ。どうしてこうなった。 「空、この子は誰?」 「にーちゃん、こいつ誰?」  責めるような口調で、僕に質問が投げ掛けられる。だから、何故。 「えーっと……、取り敢えずこちらは僕の妹」 「……どーも」  ぞんざいな口調でそれに答える妹。何故か不機嫌である。 「そして、こちらが僕のクラスメートの相沢宙」 「……よろしく」  対する宙も何故か不機嫌。僕の時とは微妙に違う、冷たい視線を妹に向け続けている。うちの家系は宙に嫌われる傾向にあるのだろうか? 「ふんっ、なぁんだ。“ただの”クラスメートかぁ」  妹の刺のある口調にぴくりと宙の眉が吊り上がる。 「そういう貴方は“ただの”妹さんね? その年になって兄離れ出来ないなんて、ちょっと問題ね」 「そうですけど、何か? あー、ちょっと兄妹水入らずで話したいことがあるから、帰ってもらえますか?」 「悪いけれど、私の方が先に空に用があるの。いつでも時間が取れる兄妹の他愛ない話より私の方がよっぽど大事で貴重な用なの。少し、席を外してもらえないかしら?」  明らかに敵意が剥き出しで交わされる言葉のキャッチボール。妹と違って直接攻撃的な言葉が出ていない分、宙の方に道理が罷り通るだろう。  案の定、宙に軍配が上がり、妹は忌々しげに唇を噛んだ。 「にーちゃん、あたしあいつ嫌い」  妹は最後にそう言い残して居間を立ち去って行った。おそらく、僕の部屋に向かったのだろう。  二人の対決(?)の名残で、居心地の悪い空気の中で宙が話しだすまで、ただ待つしかなかったのは、かなり辛いことだった。
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