第二章:好意と憎悪は紙一重

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 一学期の終業式というのは学校生活の中で、一番心踊る行事だと僕は思っている。  いざ、夏休み! という格別な解放感。期末試験も終えていて僕ら学生を縛る枷もない。まぁ、僕は入院してたから受けていないんだけど。……ともあれ、学生である中でも最も自由を謳歌出来る夏休みの幕を開ける一学期の終業式は、僕の一大行事であることは理解してもらえたと思う。  今年は秋がないんじゃないだろうかと疑いたいくらい蒸し暑い中、担任の挨拶が終わりざわつきに満ちた教室では、幾つかの同級生の輪がお喋りに興じている。  終業式という一種の解放感を共有し、興奮冷めやらぬ教室内は未だにお祭り状態。  しかし、僕こと遠峰空はそれらの輪から離れた所にある自分の座席で成績表と睨めっこ中だったりする。 「むぅ……」  現代文:5、古典:5、数学Ⅱ:1、数学B:1、英語:3、科学:3、日本史:3、体育:3、美術:3、家庭科:3。 「「なんだか……甲乙付けがたい成績」」  そうなのだ。微妙なのだ。得意と苦手がはっきりしていて、それ以外は狙いすましたかのような平凡さ。 「って、人の成績を勝手に見るなよ」 「だって、空がいつまでもしかめっ面で成績表と睨めっこしているんだもの」  宙はそう言ってぎこちない笑みを浮かべて、僕の対面に位置する座席に腰を降ろした。 「それはともかく、今日空は……」 「ん?」 「携帯は持ってきてる?」  宙はごそごそと鞄の中を探って真っ白な携帯を取り出す。照りつける日光が反射して僕の目がチカチカと眩んだ。 「う? まぁ、持ってきては……いるけど」  ただし、あまり着信音を響かせない寡黙な子なのだが。自慢じゃないが僕のアドレス帳に入っているのは先生と妹の二人だけだ。ふふん、羨ましいだろう? 僕のアドレス帳には女の子のアドレスしか入っていないんだぞ(強がってます、すいません)。  とまぁ、僕の携帯の悲しいエピソードはまた後日語るとして。  僕はポケットから取り出した真っ黒の携帯を机の上に置いた。非常に残念なことに宙の携帯と色違いの同機種である。これは、なにか? 神様とやらの嫌がらせなのか?
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