第二章:好意と憎悪は紙一重

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「うん」  なにがうん、なんだ。と訊く前に宙は僕の携帯をひったくると、両手で白黒両方の携帯をカチカチと操作し始めた。存外、器用な奴である。 「あのー、僕の携帯を何に使う気でございますか?」  なんか改まり過ぎて、卑屈になってしまった! 「見ての通りアドレス交換」  宙は顔も向けずに呟くと、勝手に赤外線通信で色違いの二つの携帯の情報交換をした。  僕はその様子をぼんやりと見ながら、赤外線は役に立つのに紫外線は役に立たないなぁ、などと横道に逸れたりしていた。 「はい」  ポイッと放り投げられた僕の携帯は持ち主に似て、惰性的かつ緩慢な放物線を描き、僕の手の平に着地を果たす。 「カチカチ」  と一人でに宙がぼやくと、宙から念願(?)の初メールを受信した。内容は『一緒にお買物に行きましょ、はーと』とクラスの陽気な女子に貰えたら嬉しいなぁーっていう次第である。しかし、宙の無表情を改めて見直してから携帯のディスプレイを眺め直すと、背中で虫が這いずり回っている錯覚を覚えた。  それから、僕は携帯のディスプレイを指差しながら宙に尋ねる。 「ふー、いず、しー?」 「しー、いず、みー」  ……どちらも英語の成績はイマイチのようだ。もしくは宙が僕のレベルに合わせたか。だとしたら……、キーッ! 悔しいっ!  そうこうしている間にも、宙が「カチカチ」と携帯を操作すると、ブルブルと携帯が震え上がり、メールの着信を告げる。あぁ、そうか。携帯くんもさっきのメールに鳥肌が立ったんだね。それはともかく内容はと……、 「さぁ、行きましょうか」 「って直接言うなら、わざわざ手間掛けるなよ……って、おい」  ぐわしっ! といった効果音が付きそうな勢いで、僕の二の腕が掴まれる。  そこから、ズリズリと宙の手がおろされていく。なんだか肉を絞り取られそうだ。ちょっと痛い。  二の腕から肘へ、肘から手首へ、そして手首から手の平へ……え?  そうなると、必然的に僕と宙が手を繋いだ状態になり、ひんやりとして柔らかい感触に、ふわぁ……と、ちょっと夢中になったりして。 「え……?」  ふと我に返り、教室中の視線が集まっていることに気付いた僕の羞恥心らしきものが遅れを取り戻すかのように内側から熱気が込みあがってくる。 「あー、あの、ちょっと、えっ? 宙?」  答えの代わりに、ぐいぐいと引っ張られて教室を後にした。
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