第二章:好意と憎悪は紙一重

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「お待たせ」  宙の抑揚のない声とともに、ダイニングに炒めたソースの匂いが漂ってきた。腹の虫がガルルと唸り声を上げそうになる。そして、制服の上にエプロンという素晴らしい格好をした宙を見て、ううむと僕は唸った。 「焼そば」 「焼さば」  そう。妹と宙の皿に盛られたのは焼そば。僕の皿に盛られたのは焼そば+焼き鯖。 「おい、こら。コック」 「はは、当店のサービスメニューです。遠慮なさらずに」 「いやいやいや」  焼そばのセンターに焼き鯖がデカデカと陣取っている光景は些かどころではなくシュールだ。  ギョッとしたさ、ああ。  閑話休題。硝子のコップに注がれた麦茶を頂いて、胃と気を引き締めてから、食事の挨拶。 「頂きます」 「……いただきます」 「はい、どうぞ」  僕に続いて妹も挨拶。それに宙が無味乾燥な口調で受け止めて促してきた。  どうやら、妹との冷戦は続いてる模様だ。  それはともかく。箸を取り、早速焼そばを啜ってみた。  もぐもぐと咀嚼していると、宙がジーッと僕の顔色を窺っている。 「味はどう?」 「うん。このそこはかとなく……えーと」  僕の頭の辞書をパラパラと捲るが、以前読んだ料理漫画の講釈は載っていないみたいだ。 「普通の感想でいい」 「ああ、そう。じゃあ無難に褒めるとですね、お「美味しい……」です、凄く」っておいおい妹よ。台詞がモロ被りじゃないか。  妹は思わずそう呟いた後、しまった! といった表情で宙を見た。  僕の殆ど聞き取れなかった感想と妹の感想を聞いた宙は、表情を変えずに目だけを嬉しそうに細めた。 「そう。素直に嬉しいわ」 「家庭的な女の子を好きになる男子の気持ちが分かったような気がするよ」 「げほっ!」  焼そばがフライアウェイ。  あれ? デジャヴ?  宙が激しく噎せまくった。 「あの、大丈夫?」  心配すると、何故か宙と妹から恨めしげな視線を頂戴した。  僕、なにか不味いこと言ったかなぁ?
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