第二章:好意と憎悪は紙一重

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 焼き鯖の方も予想を裏切って美味しく、舌も腹も満足した。組み合わせがどうかと思うが、結果オーライ。 「ご馳走様」  食事終了の挨拶をすると、ぐてーっと、頬杖を突いて席にステイ。満腹過ぎて席から離れるのが辛いのですよ。  洗い物しなきゃなーと頭の隅では思っていても、重い上半身を下半身が動かせない。  おもむろに視線を宙に向けるとバッチリ目が合ってしまい、どうしたもんかと思考が漂う。 「えーっと? ……うん。そろそろ夜も遅いから早く家に帰りな姉ちゃん」  促すように見せ掛けて、心の中では強制退去を命じているのだが、宙は「いや」とあっさり首を振って、薄い唇の端を釣り上げる。  んだと、コノヤロー。その不敵な笑みはなんぞ? とオロオロして対応に困っている間に、宙は食器を流し台に運び、洗い物を始めてしまう。  会話の切り口を失った僕は、ピクピクと震えるこめかみを押さえながら、宙の背中を半ば睨むように見つめたのだった。 「じゃじゃーん」  まったくの無表情で自作のBGMを口ずさみながら宙が掲げたのは、まるで囚人服のようなデザインをしたパジャマ。  は? パジャマ? 「シャワー、先に借りるわね」 「うぇいとあみにっつ」  はし、と肩を掴んで宙の暴走を止める。宙は「へ?」と小首を傾げて知らん顔するのだが、そうは問屋が卸さない。 「へい、わっどぅゆどぅー?」 「オー、ワタシニホンゴワカリマセーン」 「英語だよ!」 「I can't understand Japanese」 「流暢に喋るな、誤魔化すな! 僕の英語がお粗末に見られるだろ! ……って、そういう話じゃねぇ!」 「あはは、遠峰さんって面白い人ですね」 「誰!? いきなり他人行儀! その愛想笑いやめて!」 「んじゃま、そういうことでいいかしら?」 「どういうことだよ! ってうわぁぁぁぁ!? なに、脱ごうとしちゃってるわけ!?」  慌て宙から手を離し、背中を向ける。一瞬、ちらりと視界に入った処女雪のような白い肌にドギマギ。  僕もお年頃の高校生と知っての狼藉か? モラルと好奇心が激しく攻めぎ合った末に、僕は決心する。 「ちらちら」  と背後に視線を素早く走らせる。そこには息を飲むほど美しい肢体が。  なかった。 「はぅ……」  胸に去来する残念感と安堵感に包まれていると、風呂場からシャワーの音が聞こえはじめた。
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