第二章:好意と憎悪は紙一重

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「どうして、さ」 「ん、なに?」 「うちの家事……ってか世話をしようとしたんだ?」 「あなたはどうしてだと思う?」  質問に質問を返すなよ。 「気紛れ?」 「違うわ」  バッサリと切るくらいなら始めから素直に答えてくれ。 「あなたが傷付いたのは、私のせいのようなものだから。その償い」 「よく分からないけど」 「要するに、あなたが私に気を遣う必要はまったくないってことよ」 「「納得いか」」 「ねぇー」 「ない?」  いい加減こうしたやりとりにも辟易しても良いのではないだろうか。  ポリポリと頬を掻きながら、どうしたものかと返答に窮する。  そうして静けさの中に包まれている内に、宙がおもむろに腰を上げた。 「んん……」  グッと伸びをして体をほぐし、ゆったりとした調子で居間の方へと向かっていった。 「にーちゃん! お風呂どーぞ」  風呂場の方から隣近所のことなどお構いなしなボリュームの声に意識を逸らされて、僕の興味の対象が宙から離れた。 「……風呂、入るか」  宙の思惑とか、いつまで妹がうちにいるんだろうとか、そういう考えは頭の隅に追いやって、のそのそと腰を上げた。 ◇ ◇ ◇  そして翌日となった。  「昨夜はお楽しみでしたね」といったむふふなイベントは当然なく、宙には僕のベッドを、妹にはソファーを譲り、僕は押し入れに仕舞い込んでいた毛布を被って夜を明かした。当然、寝汗べっとりで気持ち悪かったのでシャワーを浴びた。  浴室を出た頃には包丁が規則的にまな板を叩く音が耳に入って、世話女房の如く宙が朝食を作っているのだと早合点した。  遅寝遅起きが信条の妹は恐らくまだ寝息をかいていることだろう。  ここ数日で、僕の家に女性分が格段に増加しましたなぁ、と他人事のように思いながら身なりを整えて、居間へと向かう。  机には卵とハムのサンドイッチが用意されていて、僕と宙はせっせとそれらを胃の中に流し込んだ。  妹の分をラップに包んでから、ふぅ……とソファーに腰掛ける。  慣れない状況に違和感をひしひしと感じる午前中の出来事であった。
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